メッセージの単純化
UCDアプローチの最初の対話は単純で力強くなければなりません。メッセージが単純であれば、組織が「肯定はするが、受け入れない状態」(つまり、「そのとおりであるが、複雑すぎる」とか、「そうではあるが、時間、資金、人手がかかりすぎる」と思う状態) になりにくくなります。UCDというアプローチは単純で手が届くものなので、このアプローチの対話では、「単純で手が届く」印象を与える必要があります。
聴取者の関心事に合わせたメッセージ作り
組織の構成員によって、UCDの採用についての関心事はそれぞれ異なります。開発者は開発サイクルの遅れが気にかかるでしょうし、管理職なら予算の超過を心配するでしょう。聴取者それぞれの関心事を扱うことによって、UCDを採り入れると組織にとって利点があることを納得してもらうことができます。
使いやすさが不充分であるために組織に発生する問題点の指摘
ユーザー中心の設計を実践していない組織では、たいていの場合、顧客が満足できない、ユーザーの生産性が悪い、トレーニングやサポートのコストが膨大である、マーケット・シェアが下降しているか停滞している、開発スケジュールや開発コストが超過している、などの何らかのサインが表われています。問題の程度を示すデータが見つかれば見つかるほど、組織が変化を受け入れる必要があることになります
UCDの意義を証明する証拠の提出
UCDを採用することの正当性を示す必要があります。最も説得力のある証拠は、それぞれの組織の UCDプロジェクトから得られます。各組織からのデータを持っていない場合は、コストに見合った使いやすさに関する外部の調査データを使います。「コストに見合った価値」の記事を読むと、UCDを始めるのに役立ちます。UCDプロジェクトを開始するときには、組織にとって重要な目標に焦点を置き、その目標の達成における UCDの意義を証明する量的および質的な証拠を集めます。量的な測定データには、ユーザーの生産性、ユーザーの満足度、開発時間、開発コスト、売り上げ高と収益、トレーニングとヘルプ・デスクのコストや保守コストなどがあります。質的な証拠としては、第三者の製品評価者からの証明書や批評などがあります。
再度述べるならば、測定データや証明書類として何を選択するかは、UCDによって達成したいと思う目標によって大きく違ってきます。たとえば、UCDによってトレーニング・コストの削減を望む場合は、UCDを使って設計し直す前と設計変更後のトレーニング・コストを比較します。
有効性の意義を証明することの難しさは、目標の達成と UCDの成果 とのつながりの中にあります。IBMの経験によれば、UCDの成果をたった 1つ挙げるだけでは、UCDの有効性の証拠として十分ではありません。むしろ、何が効果的と思われるかというと、UCDが組織に浸透するにつれて、ユーザーの要望やニーズへの対応という点に関して製品の全体的な質が向上することを示すことです。このためには、UCDプロセスが活発化するために要する時間と、UCDの作業とその成果とを注意深く追いかけることが必要です。
UCDの基本方針の設定
UCDの基本方針とは、UCDプロセスの骨子を簡潔に規定し、これを伝えるものです。基本方針の数は、覚えやすいように5つか 6つに限定します。基本方針の良い例を以下に示します。
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- 事業目標の設定: ターゲットとする市場、対象とするユーザー、最も有力な競合製品を見極めることが、設計とユーザー参加すべてにおいて最も重要なことです。
- ユーザーの理解: 設計プロセスにおいては、対象とするユーザーを理解し、ユーザーを参加させることが必要不可欠です。
- ユーザーが体験するすべての事物の設計: ユーザーが目にし手で触れるすべてのものを、多分野にまたがる1つのチームが総合して設計します。
- 設計の評価: ユーザーからのフィードバックを早い時期に頻繁に収集し、このフィードバックを基に製品の設計を行います。
- 競争力の評価: 優れた設計には、競合製品とその顧客に対する継続的な認識が必要です。
- 継続的なユーザー観察による管理: ユーザーからのフィードバックは、製品プラン、優先順位の設定、意思決定において不可欠な要素です。
組織の中のカギとなる構成員に、その組織固有の基本方針を作成する手助けをしてもらってください。構成員からの情報があれば、その組織に合った核となる声明を作成することができます。このようなカギとなる構成員がUCDをその組織に合ったものに調整できれば、彼らをスタッフの一員にすることもできます。成功のためには彼らのサポートが必要になります。
単純なメッセージによる UCDの必要性の宣伝
以下に示すような単純なメッセージは、UCDの必要性についての関心を集めます。プレゼンテーションなどの顧客との対話の際には、このようなメッセージを使ってください。
UCDを宣伝するIBMのメッセージ
使用しているテクノロジーが誰の目にも見えますか?
使いやすさだけでは誰も買いません。でも、使いやすくない製品は誰も買いません。
使いやすさは目に見えないかもしれませんが、使いやすさがないことも、もちろん見えません。
e-business の可能性をできるだけ有効に利用したいと思いませんか? 簡単なことです。
ユーザーが誰であるか知っていますか?
ユーザーの経験から学んでください。
カギとなるアプリケーションをつくるのは簡単なことではありません。でも、それをより良く使うことが簡単でなければなりません。
UCDの教育の提供
UCDの採用を複雑にする必要はありませんが、UCDを採用するには、各組織の構成員の教育が必要です。概要から一連の本格的な講習までのすべてを提供することによって、組織内の構成員を教育します。好結果を得るために、各組織固有の要求事項に合わせて教育用の資料を作成します。会社の製品に関連した事例をいくつか盛り込み、対話による経験的なセッションを持てるようにします。
組織の規模が大きければ、その組織特有のニーズに合わせて設定した独自の講習を用意することもできますが、外部から専門家を雇ってもかまいません。IBMでは、意識、管理職、入門、上級の4 種類の教育を行います。組織とその目標によって、選択する教育の内容と種類が異なります。たとえば、最高経営責任者 (CEO) を含めて従業員が 5 人の会社であれば、意識教育に特定のプログラムは必要ないかもしれません。実際には製品が使いやすさの点で認められることを意図しているのではなく、組織内でユーザーにもう少し焦点を当てたいという場合は、提供する教育を、意識教育と入門教育のプレゼンテーションに限定し、ユーザーにもっと焦点を当てるUCDの方法をいくつか提示することもできます。これに対して、大規模な組織で製品の使いやすさを飛躍的に向上させたい場合は、ここで推奨した 4 種類の教育を提供することができます。
意識教育 では、UCDの骨子と意義を伝えます。15~60分の入門用のプレゼンテーションか、短時間のビデオのどちらかの形をとります。1つのビデオを組織から組織へ配布することができるため、大勢の人がUCDについて異なる見方を持ち、伝えたメッセージが一致しないという危険性をできるだけ抑えることができます。
レディング、カリフォルニア州はどこですか?
TIPS: UCDについての意識を高める方法の 1つとして、ロゴや視覚的な認識シンボルを作成し、それをマグ・カップ、シャツ、マウス・パッドなどにプリントして見せる方法があります。このようなグッズをUCDの講習の卒業者や、会社内で UCDをより効果的に実践するための優れた提案を行った従業員などに与えます。しばらくすると、組織内の多くの人がその認識シンボルに気付き、認識するようになります。
管理職教育は、UCDの重要概念を知り、UCDを使用して組織をリードする方法を知っておく必要のある上級管理者を対象とします。管理職は組織の目標と戦略を決定し、資源を割り当て、組織の方向性を伝えるものであるため、この教育は必要不可欠です。
TIPS: 我々の経験によると、管理職には事例に基づく2~4時間の講習が最も効果的です。管理職が問題を分析し、解決策を提案します。通常、いくつかのグループで最善の解答を出すのを競い、解答をグループに戻します。このアプローチでは、段階的な情報開示によって、UCDの重要な学習ポイントを明らかにします。
入門教育は、UCDプロセスの骨子を伝えます。1日の講習か、または Web ベースの指導のどちらかの形をとります。この教育では、ユーザー中心の設計のさまざまな側面が実際にどのように実行されるかを実例を挙げて示します。この教育の目的は組織のすべての構成員が UCDについて理解し、UCDを支持することを確認することです。たとえば、財務担当役員がUCDに携わる人員補充のための支出を確実に承認するようにします。UCDの多分野にまたがるチームのすべてのメンバーが、UCDプロジェクトを開始する前にこの講習を受ける必要があります。
上級教育は、UCDプロジェクトに任命された多分野にまたがるチームのメンバーが受ける必要があります。チームの各メンバーが、それぞれの役割と責任、チーム全体としての役割と責任を経験に基づいた実習を通して学びます。通常、この講習は、日間のワークショップという形をとります。
正しい技術や知識の習得
UCDの成功にとって、適任者を得、最良の技術や知識を習得することが最も重要なことです。個々の職務区分は会社ごとにそれぞれ異なるかもしれませんが、固有の役割、責任、習得すべき技術や知識の概略を以下にまとめます。
UCDチームのリード
責任: UCDの成果物、プラン、およびこれらを開発プランにまとめることについての全体的な責任を持ちます。
習得すべき技術と知識: プロジェクト管理、UCDプロセス、開発プロセス
ユーザーが体験する事物の設計におけるリード
責任: プロジェクトのユーザーが目にし手に触れるすべての事物の設計についての責任を持ちます。
習得すべき技術と知識: 洞察力、リーダーシップ、専門的な技術と知識、プロジェクトと人の管理、プロジェクトの進行
ビジュアル・デザイナーまたは工業デザイナー
責任 : 広告、梱包、製品のデザインの統一的な視覚的特徴など、ソフトウェア製品の全体的な外観、レイアウト、意匠の調和についての責任を持ちます。
習得すべき技術と知識: 芸術性、デザイン、モデル / プロトタイプの構築、創造力、チームワーク
HCI 設計者
責任: タスクの流れ、対話による設計、ユーザーが実行するタスクとコンピューターが実行するタスクの区分についての責任を持ちます。
習得すべき技術と知識:人間とコンピューターの対話、概念のモデル化、情報の統合
ユーザー支援機構の設計者
責任: 製品に合ったユーザー支援機構を明示する責任を持ちます。
習得すべき技術と知識: 情報構築、チームワーク
テクノロジー設計者
責任: ユーザーが体験するすべての事物を求められる形で構築するために必要な、根源的なテクノロジーを明示する責任を持ちます。
習得すべき技術と知識: 関連分野、開発プロセス、プログラミング / エンジニアリングにおける専門的な技術と知識、チームワーク
行うためのモントリオール観光
販売活動の専門家
責任: ターゲットとする市場、対象ユーザー、主要な競合他社、使いやすさの市場目標、使いやすさのメッセージ、および販売チャネル、梱包、期間および売買条件に関する要件を明示します。
習得すべき技術と知識: 販売活動、市場に対する理解力、市場動向、情報の統合、チームワーク
サービス / サポートの専門家
責任: 製品と共に提供すべきサービスとサポートを明示します。
習得すべき技術と知識: サービス / サポートのテクノロジーとオプション
国際化と用語の専門家
責任: 提供製品が対象となる国際的な顧客のニーズに対応できるようにし、製品の各種の用語を明確にします。
習得すべき技術と知識: 国際化と地域化の分化、専門用語、言語、HL の使用可能化
ユーザー調査の専門家
責任: プロジェクトで実施される、ユーザー中心の設計に関する調査の計画、分析、解釈についての責任を持ちます。適用された調査結果 からの勧告の表明も行います。
習得すべき技術と知識: 使いやすさのエンジニアリング、技術的な適正、UCDの各種の方法
プロジェクトを開始するときは、「所有品と必要品」の分析を行って、チームのメンバーが果 たすそれぞれの役割を決定します。技術や知識が欠如していないか、重複していないかを調べて、必要に応じて多分野にまたがるチームを編成し直してください。
UCDのプロジェクト・チームの設立時によく起こる問題には、次のようなものがあります。
- ビジュアル・デザイナーの必要性を認識せず、ヒューマン・ファクターの専門家しか必要ないと考える組織があります。
- 「ニュー・メディア」の企業は、往々にしてヒューマン・ファクターの専門家の必要性を認識せず、ビジュアル・デザイナーだけを必要と考えるものです。
- 多くのチームが多分野にまたがる設計チームに販売活動の分野を入れ忘れます。
- 多くの組織が UCDのプロジェクト・リーダーやユーザーが体験する事物の設計リーダーに適した人員を補充しません。
- ビジュアル・デザインやヒューマン・ファクターなどの技術や知識に通 じていない多くの組織は、このような技術や知識を他者が「手に入れる」ことを期待したり、このような技術や知識は持っているが、トレーニングや経験が十分でない人員を雇います。
このような問題を避けるための良い方法は、コンサルティング機関を雇うことによって、プロジェクトの準備に役立て、特に必要な専門の熟練技術や知識を提供することです。最初のプロジェクトかつのプロジェクトに成功した後、組織の中でこのような技術や知識を習得し、構築する作業を開始してもかまいません。コンサルタントは、このときにもしばしば手助けをすることができます。
TIPS: 大きな会社では、個々の専門家のデータベースを使って、プロジェクトのためのプロを選ぶことができます。
適切な方法の採用
プロジェクトの開始時に、UCDを首尾よく実現するために必要な活動プランを作成してください。このプラン作成を容易にするためには、「サンプル UCDプラン」を使用します。以下でこのプランについて説明します。このサンプル・プランには、考えられるUCDの諸活動、こうした活動のための情報、期待される成果物が示されています。
プロジェクトの開始時に、UCDチームは現在のプロジェクトに関連して、これらの各活動を検討します。いくつかの活動がすでに完了しているプロジェクトもあるでしょう。たとえば、他のチームや組織が対象ユーザーや競合製品、ユーザーの要求事項をすでに定めている場合があります。この場合は、UCDチームが市場データを集める必要はないでしょうが、その代わりに、このデータを集めた組織と連係をとる必要があります。UCDは、「1つの標準がすべてに当てはまる」プロセスではありません。UCDは個々のプロジェクトの必要性に合わせて個別修正する必要があります。
開発段階の UCDの活動
市場の定義
成果物: 対象ユーザーの定義、主要な競合他社 (1社または複数) の割り出し、競争に有利な目標、新製品や製品の機能強化の定義
ユーザーからのフィードバック・データ: 市場データ、顧客の要求事項
タスクの分析
活動: 市場データと顧客の要求事項を評価し、対象ユーザーと顧客の明細を作成し、タスク分析データを評価します。
成果物: タスク分析に携わる人員を補充するための顧客明細
ユーザーからのフィードバック・データ: 現在および将来のタスクとタスクの特性、一般的な使用状況のシナリオ
競合他社の評価
活動: 競争力を評価するための準備を行い、競合他社の評価データを評価します。
成果物: 評価に使用するタスクとシナリオ
ユーザーからのフィードバック・データ: 競合他社の強みと弱点および影響力、競合他社でのユーザーの満足度、ベンチマーク
設計とウォークスルー
活動: 高レベルの設計目標を設定します。モデル、メタフォー、主要メッセージ、代替設計ソリューションを示します。代替設計ソリューションを提案し、ユーザー情報に基づいてソリューションを選択します。
成果物: 高レベルの設計についての精度の低いプロトタイプおよび設計ウォークスルーのための評価用模型、高レベルの設計に対するユーザーの反応に基づいた「適切また不適切」の勧告
ユーザーからのフィーバック・データ: ユーザーの満足度と購入の意向、高レベルの設計に対するユーザーの反応
評価と妥当性の検証
活動: 固有の設計目標と代替案を設定します。設計のプロトタイプを作成し、評価し、妥当性を検証します。低レベルの設計の批評を保持しておきます。プロトタイプでのユーザー経験の分析に基づいて、繰り返し設計を行います。
成果物: 特定の設計ソリューションについての精度の低いプロトタイプ
ユーザーからのフィードバック・データ: 低レベルの設計に対するユーザーの反応、競合他社のベンチマーク・データとの比較
ベンチマーク評価
活動: 競合製品に対してベンチマーク評価で競り合い、ベンチマーク評価データを評価し、将来におけるリリースのための変更点を目標として設定します。
成果物: 出荷勧告
ユーザーからのフィードバック・データ: ユーザーの満足度と購入の意向、ベンチマークとの比較
試験的プロジェクトを慎重に選択する
大規模な組織全体で一度に UCDを導入するのではなく、試験的なプロジェクトを行ってください。いくつかのプロジェクトを管理するより、1つのプロジェクトを管理するほうがずっとたやすいでしょう。また、組織内に、いくつかのプロジェクトを同時に開始するためのトレーニングを十分積んだスタッフがいない場合もあります。
どんなプロジェクトを選んでもかまいませんが、チームの各メンバーがこのプロセスについて学んでいる最中でもあり、UCDはプロジェクトの成功によって判断されるため、試験的なプロジェクトは慎重に選んでください。以下に理想的なプロジェクトを示します。
- 製品の設計に影響を及ぼす可能性のあるプロジェクト
- 規模が適度に小さく、自己完結型のプロジェクト
- 必要な UCDの技術と知識すべてを備えたチーム・メンバーが揃っているプロジェクト
問題が発生するのは、組織で誰かが提案した最初のプロジェクトを進めているとき、新しいテクノロジーであるか、またはすでに時期が遅いか予算を超過しているかの理由で「リスクが高い」プロジェクトを選んだとき、あるいは第三者の部品供給元や複数の開発サイトなど、依存する物が多数あるプロジェクトを選んだときです。
試験的なプロジェクトでは、組織にとって重要な目標を必ず設定し、その目標を達する際に、UCDの意義を証明するデータの収集を忘れないでください。たとえば、組織の重要目標が顧客満足度を向上させることであれば、顧客満足度の向上を示す、UCDの採用前と採用後のデータを収集します。試験的なプロジェクトが完了し、これが成功したときは、成功を示す事物を含めたプロジェクトの詳細情報を会社全体で共有してください。また、設計チームのメンバーにUCDでの彼らの経験を話してもらってください。
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