昨年、清涼飲料業界は暖冬と猛暑に救われて史上最高の出荷数量を記録した。
だが、今年の市場規模は現時点で微増にとどまっており、強気の販売計画を掲げているメーカー各社は、売上高確保・シェア死守のための乱売合戦に突入している。
上位メーカー、上位ブランドの寡占化がさらに加速するのは必至で、いよいよ業界再編待ったなしの状況を迎えつつある。
ミネラルウオーターの乱売合戦がまたぞろ激化しつつある。
大手スーパー店頭では、希望小売価格240円前後の2リットル入りペットボトルが100円を切ることも珍しくなくなってしまった。
数年前には、日本コカ・コーラの「森の水だより」が90円を切り、大手各社のミネラルウオーターもそれに引きずられて100円を割る泥沼に陥った。
100円前後の安売りは、「週末特売」などのかたちで今も続いている。だが、最近では週末限定が平日、100ケース限定が1000ケース限定、ドラッグストアでも特売を行なったりと、再び「たたき売り」が広がっている。
ミネラルウオーターは、過去5年間で市場規模が倍増した売れ筋商品。昨年来、日本コカ・コーラ、サントリー、キリンビバレッジ、アサヒ飲料といった大手各社が生産能力を拡張している。
ところが、清涼飲料全体の春商� �が低調(詳しくは後述)で事情は一変。
製造原価が低く、量を裁けるミネラルウオーターの乱売で「売上高を確保し、シェアを守るしかない」(大手メーカー幹部)窮地に追い込まれた。
それでも売れ行きが鈍化してしまったブランドは少なくない。
スーパーの特売価格は、事前の商談で「特売条件」と呼ばれる販売促進費の割り増し支払い契約を結ぶことで決められる。
これで、「通常よりもさらに 2リットル入りペットボトル1本当たり30〜50円もの販促費が上乗せされ、店頭では100円で売られる」(大手流通バイヤー)。
何が海はとても汚染され得るようになります
昨年までは値戻し(店頭価格の引き上げ)に奔走していた大手が、いまや「価格勝負もやむなし」と現場に指令を出している。
いきおい、投入される販促費もふくらむ。
大手飲料メーカーの幹部は、営業担当が報告してくる他社商品のスーパー店頭価格にいらだちを隠さない。
「なに、"コカ"がまた2円下げた? しょうがねえな!」
今は局地戦レベルのミネラルウオーターの乱売合戦は、こうして全国に拡大する様相を呈している。
過去を振り返れば、2005年に業界大手各社は「緑茶」の乱売合戦に突入。
それまで期待の星だった緑茶市場は翌年からマイナスに転じた。
清涼飲料業界では同じ過ちが繰り返される。
春商戦は計画倒れ続出
勝者なき消耗戦に突入
昨年の清涼飲料市場は対前年比で3%増え、17億5800万ケース(飲料総研調べ。以下の数量も同じ)という史上最高の出荷数量を記録した。
暖冬と8月以降の猛暑のおかげで、ミネラルウオーター、炭酸飲料、果汁飲料等が売れ行きを伸ばした。
大手12社については、日本たばこ産業(JT)とサッポロ飲料を除く10社が出荷数量を増やす好調ぶりで、これを受けて今年度は大手各社のほとんどが販売量拡大を前提とする積極経営計画を打ち出した。
とりわけ、少子高齢化と若年層のアルコール離れに苦しむ大手ビールメーカーは、清涼飲料に期待をかけている。
キリンビバレッジを例にとれば、今年度の販売数量目標は対前年実績比13%増。アサヒ飲料は同11%増。昨年の好調下にあっても市場全体では3%しか伸びなかったことを考えれば、超強気である。
だが、年明け以降の春商戦は予想以上に厳しかった。
今年1〜3月の第1四半期における清涼飲料市場はほぼ横ばい。
出荷実績が対前年比で1%以上増えたのは、大手12社のなかではサントリー(6%増)、ポッカコーポレーション(3%増)、伊藤園(2%増)、アサヒ飲料(単体で1%増)、カルピス(1%増)の5社しかない。日本コカ・コーラとダイドードリンコは横ばい。
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残る5社については、キリンビバレッジ(3%減)、大塚グループ(4%減)、カゴメ(5%減)、JT(6%減)、サッポロ飲料(10%減)と惨憺たる状況。過去2年で20%も出荷数量を増やしたカゴメでさえ苦戦を強いられており、大幅な計画未達が続出している。
もっとも、この苦境は事前に予見できたことだ。ある大手メーカーの社長は「業績好調は天候に救われただけ。新商品はヒットせず、既存ブランド頼みに終わった。市場の成長が止まれば、瞬く間に負け組が続出する」と昨年時点で予言していた。
上位5社で市場の4分の3のシェア その言葉を裏づけるように、清涼飲料業界では寡占化が急速に進んでいる� ��
市場全体の74.3%は、すでに日本コカ・コーラ、サントリー、キリンビバレッジ、伊藤園、アサヒ飲料の5社によって占められ、過去1年で1.2ポイント増えた。
しかも、暖冬と猛暑に恵まれた昨年でさえ、年間販売1000万ケース――基幹ブランドとして市場に定着できる目安となる――を超えた新商品はサントリーの「黒烏龍茶」1ブランドだけだった。いまや市場の74%は年間1000万ケース以上を売る既存ブランド頼みとなっている(下のグラフ参照)。
メーカーの優勝劣敗は明らか
新商品開発が不調で新たな市場を創出できず、既存ブランドの販売競争激化で上位ブランドの寡占化、ひいては上位メーカーの寡占化が進む市場成熟化が加速しているのだ。
昨年6月発売の「コカ・コーラ ゼロ」は今年1000万ケースを超 え、長期低落傾向にあった炭酸市場は久びさに活性化したが、上位メーカーと基幹ブランドによる寡占化の流れに変わりはない。
本格化する業界再編
JTの動きに要注目
進む巨大ブランドへの集中 寡占化による優勝劣敗が明らかになり、かつ市場成長も期待できないとあっては、下位メーカーは真剣に生き残り戦略を模索せざるをえない。
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昨年2月、カゴメがアサヒビールと資本提携、さらに10月にはカルピスがアサヒ飲料と業界初の自販機事業統合に動いた。
自販機設置台数でアサヒ飲料・カルピス連合軍は業界5位にのし上がった(右下の表参照)。
アサヒとカルピスが事業統合で浮上
*2007年12月末時点。ダイドードリンコ、JT、伊藤園は08年3月末時点。アサヒ飲料、カルピス、アサヒカルピスビバレッジは07年10月時点。本誌推定を含む
アサヒ飲料・カルピスの自販機には、アサヒ飲料の缶コーヒーと緑茶、カルピスの乳性飲料が並んでいる。
この事業統合で、カルピスは缶コーヒーと緑茶から撤退。アサヒ飲料と組むことで、自社の4倍規模の自販機網を手に入れ、乳性飲料売り伸ばしに賭ける。
業界シェア9位という実力では、総合飲料メーカーの看板をはずし、乳性飲料に経営資源を集中するしかないという判断だ。
かたや業界5位のアサヒ飲料にしてみれば、自販機統合会社が連結されることで出荷数量は7%増に跳ね上がった。
カゴメとの資本提携で野菜・果汁飲料、カルピスとの自販機統合で乳性飲料を自陣営に取り込み、業容拡大に結び付けた。
今後、アサヒ飲料とカゴメ、カルピスのような提携・再編がさらに相次ぐのは、まず間違いない。
業界上位メーカーを見渡せば、日本コカ・コーラは野菜・乳性飲料が弱いし、伊藤園は缶コーヒーブランドの育成が急務となっている。
合従連衡(がっしょうれんこう)による相互補完の需要は根強い。
一方で業界下位メーカーについては、当面、ダイドードリンコ、ポッカ、JT、サッポロ飲料の動きが注目されることになろう。
とりわけ、ダイドードリンコは業界シェアでは7位だが、自販機網に限れば3位の実績を有する。
自販機は清涼飲料販売の約4割を占める流通チャネルであり、値崩れが少ないゆえ、またとない「花嫁候補」だ。
投資ファンドと組んだMBO(経営陣による自社買収)でリストラに取り組んだポッカは、来年の再上場を目前にして明治製菓からの出資を受け入れたが、これは買収防衛策の性格が強く、大手各社との合従連衡の可能性も十分ある。
問題は、飲料戦略が中途半端なJT、サッポロ飲料。
特に年間2000億円ものキャッシュフローが積み上がるJTは、業界地図を塗り替える投資余力があるにもかかわらず、自販機運営会社に出資した以外に、これといった布石は打てていない。
新規参入からわずか4年で缶コーヒーを1000万ケース超まで育てたのは資金力の賜物だが、その資金力も今は宝の持ち腐れ状態にある。
かたやサッポロ飲料は集中と選択をうたいながら、集中すべき強い商品が見当たらない。
基幹となるブランドを創出できなければ、自販機を"持参金"に業界再編に身を投じるしかないと目される。
大手メーカーは缶コーヒー、緑茶、炭酸などのフルラインを手がける総合飲料メーカーを目指すのか、選択と集中で特定分野に特化して生き残りを図るか。今年の夏商戦も低空飛行が続くようであれば、清涼飲料業界の再編圧力はますます高まることになる。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 小出康成)
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